チャイニーズハムスターの生態について
チャイニーズハムスターの生態について
投稿日時:
- 名前
- 山登魚
先週、母校の図書館に行った際、チャイニーズハムスターに関する記述を2冊の本の中で見つけましたので、そのうち詳細な方を要約して紹介します。
引用:
高垣善男・鈴木潔 編著『開発途上の実験動物』清至書院 1984年5月 p.9〜32
チャイニーズハムスターは、実験用のマウスが入手困難で高価だったため、マウスの代用として北京の街頭で入手されたものがはじまりです(現地の野生動物市場で、マウス以下の安価な食材として、売られていたのかも知れません)。
以来、中国人と英国人の研究者によって実験に使用されていましたが、実験室内で繁殖ができなかったため、毎回野生の動物を捕獲して使用していたようです。
1950年代に入って、チャイニーズハムスターに、従来、齧歯類としては全く知られていなかった自然発症糖尿病が発見され、繁殖方法も確立しました(不幸な子を増やしたくないため、具体的な方法について、ここでの紹介は控えます)。
チャイニーズハムスターの特徴は、以下の通りです。
<チャイニーズハムスターの特徴>
- 夜行性で、照明時間中は睡眠している場合が多い。照明時間はシリアン(ゴールデン)ハムスターが12時間なのに対し、14時間に設定するのが望ましい。
- 頬袋の膜の厚さは、シリアンハムスターが0.50mmなのに対し、0.07mmと薄く、光の透過性が高い。
- 頬袋に飼料を貯める習性はあるが、マウスのように飼料を砕いてケージの底に落とすことはほとんどしない。
- 糞尿はほぼ決まった場所に排泄する。
- 木毛、稲ワラを巣材として入れると、巧みに巣をつくる。
- 性質は温順で取り扱いやすい。
- 繁殖可能な月齢は雄3.5〜4.0ヵ月齢、雌3ヵ月齢で、シリアンハムスターより遅い。
- 雌が雄を厳しく攻撃する行動がみられ、発情前期の午後から翌朝までの間(この間に交尾がみられる)以外はことさら激しい。 攻撃を受ける場所は生殖器に集中し、尾が咬み切られる場合もある。雄雌つがいで同居させると、雌の攻撃を受けて死亡することが多い(この習性のために長らく繁殖させることができなかった)。
- 妊娠期間は20〜21日(ほとんどが20日)、産仔数は平均5〜6匹で、離乳は生後18〜21日ごろとされている。離乳率は80〜95%と高い。
樹上性についての記載は、残念ながら確認することができませんでした。
短日長夜の環境下に移すと、シリアンハムスターは生殖機能が低下し、冬眠に入るのと同様の生理状態となることが、かなり以前から知られています。
チャイニーズハムスターも、連続暗黒の環境で飼育すると、冬眠中のように生殖器の重量が減少します(常に真っ暗な冬眠中の巣穴にいる時のように生殖機能が省エネモードに入り、一定期間が経過してから、繁殖期の状態に戻っていく)。
一方、連続照明の環境下で飼育すると、雌のラットが連続発情するのに対し、シリアンハムスターの雌は、連続発情しないとされています。
チャイニーズハムスターの雌も、連続照明の環境下では連続発情することはなく、ほぼ完全な4日の性周期を維持します。
しかし、雄のチャイニーズハムスターは、連続照明環境下では臓器の重量が減少し、連続照明環境下でも内因性のリズムを消失しません。
チャイニーズハムスターは、優性突然変異遺伝子を持っている場合があり、その遺伝子を持つ雌に繁殖能力はありますが、雄は精子形成不全症となります。
また、それとは別の遺伝子もあり、その遺伝子を持っている雌に異常が見られませんが、雄は生殖系の成熟が遅れる、思春期遅発症の状態となります。
チャイニーズハムスターの生態について
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そして、チャイニーズハムスターに顕著な特徴である自然発症糖尿病は、1959年に、齧歯類では初めて発見されました。
実験には、遺伝子の個体差による数値のブレを少なくするため、近親交配系の動物が必要なのですが、チャイニーズハムスターにおける近交系の育成は、糖尿病という特定の育種目標を設定して行われてきたものといえます。
世界各国の研究室で維持されている系統は、大まかに分けて以下の系統があります。
<チャイニーズハムスターの家系>
- ケトーシスを伴う重症の糖尿病を発症する家系
- ケトーシスを伴わない糖尿病を発症する家系
- 糖尿病を発症しない家系
ケトーシスとは、エネルギー不足時に、生体内にケトン体が増量し、食欲や消化管機能等が低下した状態のことで、吐き気や嘔吐、腹痛など消化器症状が現れます。
さらに、インスリンの不足によって血液が極端に酸性に傾いてしまうケトアシドーシスという状態まで進行すると、意識障害や昏睡といった危険な状態に至ることがあり、放置すると命に関わります。
研究室で維持されているチャイニーズハムスターの家系のうち、1系統を除く5系統は85%以上の高確率で尿糖陽性を示し、生まれた時多くの個体がすでに前糖尿病の状態にあるといえます。
重症の糖尿病を発症する家系を維持するのは難しく、最初に発見された家系は近親交配8〜10世代にまで達した後にほとんどが絶え、それ以外の糖尿病家系でも繁殖成績が悪いことから、この論が執筆された時点では、世界的に広く利用される段階にまで至っていません。
ケトーシスを伴った両親から生まれた個体は100% 尿糖陽性を示しますが、ケトーシスの発現は約20%程度です。
遺伝的要因ばかりでなく、母体の子宮内環境、飼料摂取量、飼料中の脂肪含量など環境要因の影響も強く受けているといわれています。
10匹のケトーシスを伴う重症糖尿病チャイニーズハムスターを得るためには、最低限500匹を生み出さなければなりません。
東京で維持しているコロニー(東京医科大学)の中には、ケトーシスを伴わない糖尿病の家系があります。
肥満ではなく、多食、多飲、多尿で、異常臭を発する個体が発見されていて、それらは尿糖陽性、高血糖、低耐糖能を示しています。発症は平均5ヵ月齢で、その率は35〜50%です。発症はほとんどが雄にみられ、顕著な雌雄差が認められているのがこの系統の特徴です。
発症後、長期にわたると血中インスリン値は低値となりますが、インスリンを投与しなくても、かなり長期にわたって生存します。
旭川コロニー(旭川医科大学?)で発見された糖尿病の家系は、生後1.5ヵ月〜10.5ヵ月で発症し、早期発症の個体ほど重症になる傾向が強くなっています。
発症には雌雄の差はなく、膵島炎が高頻度にみられるのが特徴です。さらに重症例では、膵島炎に替わってラ氏島偽腔形成がみられます。
重症の場合、肥満を伴わず、多食、多飲、多尿となり、中にはケトーシスを示すものもあるようです。血中および膵インスリン値はともに低下します。
この系統の重症雌の排卵数および着床率の低下、着床前の胚における発生異常等はみられませんが、着床後の死亡、外表奇形および発育不全が増加することが明らかにされています。
さらに加齢に伴い、出産したことのない雌の子宮実質膜における腫瘍発生率が増加し、そのほとんどが子宮内膜の癌腫であることも明らかにされています。
これも執筆時点の話になりますが、実験動物にみられる子宮の腫瘍はウサギ以外散発的にしか発生しないと言われていて、チャイニーズハムスターの子宮内膜癌腫の発生率は遺伝的特性と考えられるため、癌研究に有用性が高いとして、近交系を育成する必要性も論じられていました。
最後に、チャイニーズハムスターの平均生存日数は雄で1,180日(約3年3か月)、雌で950日(約2年7か月)と、マウス・ラットに比べてやや長くなっています。
そして600日齢(約1年8か月)以降、自然発生病変が認められるものの、出現頻度は比較的低くなっています。
以上、ここまでまとめて自分が思ったことは、苦痛を伴って失われた命が多すぎて、ただただ辛く、そしてチャイニーズハムスターがいっそう愛おしいということです。
今でもチャイニーズの繁殖に労力とスペースが必要で、研究室出身ではなく、ブリーダーによる繁殖個体であるならば、他のハムスターより価格を高く設定しなければ割に合わないと思います。
そしてこれからチャイニーズを飼われる方には、他の種類のハムスター以上に、相当の時間とお金を捧げる覚悟が必要だと思います。
私は、いつか複数飼育できる環境が整った後にチャイニーズを見かけたら、きっとお迎えすることにすると思います。